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宵待ち

午後、車にガソリンを入れに行ったついでにコーヒー豆を買いにいつものお店に寄った。
雲も多かったけれど日差しもあり、
街路樹の赤い色が白っぽい街並みによく映えていた。
テーブルに大きめのマグに入ったコーヒーと、
豆の入った小さな麻袋が並ぶ。

マスター:最近全然来ないから転勤にでもなったのかと
ぼく:似てる。ニューヨークと日本を行ったり来たりしてて
マスター:前から思ってたけどもしかして大企業の重役さん?
ぼく:それほどでも
マスター:うん、若すぎるもんねぇ


マスターとはもう10年以上の付き合いだけれども
あまりお互いのことを話したことがない。
ぼくがどこに勤めていてどこでどんな暮らしをしているのか、
そういうことは一度も話したこともなければ聞かれたこともない。
会話は容易に詮索に結びつく。
控えめなマスターの振る舞いが何よりも心地よいからこそ
ぼくはもう10年以上もそのお店に通っているのかもしれなかった。

秋が深まる。
コーヒーの温かさが掌に広がる。
頬杖をついて目を閉じて
カウンターの奥でカップを洗う音が聞こえる。
お客が多くてにぎやかな店内にどこか居心地の悪さを感じてしまう。
大勢の他人の空気感。
これがなにより苦手だけれど
でもスーパーで買い物をする時だけは別なのは
そこ(スーパー)がぼくにとって長い間幸せの象徴であったからに他ならない。
夜でも煌々とした照明、家族連れの笑顔、子供の声。
何一つぼくには縁のないものだったけれど
でもそんなものに少しでも近づける気になれる唯一の場所だった。

まぁそんなことはともかく。
11月の秋空の下だった。
カウンター席のそばに座っていたカップルは車を買う、買わないの話をしていた。
コーヒーのおかわりを持ってきてくれたマスターが言う。

「いつもとオーラが違う。大物の雰囲気になった」

あいまいな笑顔でいるしか返事のしようがなかった。
カップルがこちらを向いた。

マスター:うん、色気が出てきた
ぼく:車のせいじゃない?

ぼくはキーのエンブレムをマスターに見せた。
マスターはお皿をふきながら
BMWに乗ってる下品なやつはたくさん知ってる、と言った。
カップルがぼくらのやり取りに聞き耳を立てていた。

陽が沈んだらぼくも品がなくなると思う、と答えて会計を済ます。
またのお越しを、とマスターが言った。
ぼくはうなづいて店を出た。
海に近いお店の前の道路は
もう自動車のテールランプが鮮やかになる時間で、
一瞬強い風が吹いて何気なく目を閉じてしまう。
お店を出る間際、うなづいたぼくは確かに愛想笑いの笑みを浮かべていたと思う。
それが成長だと言うのなら、
マスターの観察力もまんざらではないのかもしれない。
いずれにしても
なんでもない秋の日曜だった。













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